夢物語1
「ところでさ…話あるんだけど」
私はこの人のことをよく知らない。
なのにこの人に対して話がある。
付き合ってくれるのかどうかだ。
「この一年一緒にいたけどさ」
「あぁ。なんとなくわかってるし、うまくいくと思う」
「私早く結婚したいと思ってるんだけど、その辺も考えてくれてる?」
「考えてるよ。それも考慮した上で、うまくいくと思う」
私は彼のことが嫌いじゃない。
かなり体が大きくて、スーツを着てて、清潔感もある。
ただ顔に靄がかかっているように、よく見えない。
彼と一緒に電車に乗ってそれぞれの家に帰ることになった。
「付き合うなら一緒に住みたいよね?」
「うん、私はできるなら一緒でいいと思うけど…でもまだ区切りが悪いし、もう少し一人で過ごしてからかな?」
「そうだね、待たせちゃうけど、数ヶ月の辛抱だから」
彼は仕事が忙しいらしかった。
遠距離になるので、仕事で区切りがついたらすぐに一緒に住もうと約束した。
でも何かが違う。しっくりこない。
彼がプロ野球の話をしていたけれど、その野球の話、なんか違う。
趣味の話もしてくれるけど、なんか違う。
私がしてほしい話と、ちょっとだけ何か違うのだ。
明らかに違和感を覚える。
私は何か忘れている。
彼が私を家の近くまで送ってくれた。
「今日はありがとう。またすぐ遊びに来るからね。一緒に住むのももう少しだから安心してね」
「うん、送ってくれてありがとう。」
家に着くまでの少しの道で考えた。
私のこの好意が向いているのは、彼じゃない。
違う人だ。だれ…?
昔のあの人じゃない。同級生でもない、同僚でもない。誰…?
家に着き、机の引き出しを慌てて見た。
一通の手紙がある。これを探していた。
でも怖い。
ここには見たくないものが書いてある。
それを知っている。
手紙を取り出すと、2枚にわたる便箋に、
細かい文字でびっしりと別れの言葉が書いてあった。
『こんな結果になって、本当にごめん。
最後にキスしちゃって本当にごめん。
楽しかったね。
…』
続きを見ることが出来なかった。
この続きを読んでしまったら、私はこの涙が止まらなくなってしまう。
わかってる、私が好きなのはこの手紙の送り主。
この人のことが世界で一番好きなのに。
一緒に過ごした記憶も微かに残ってる。
いや、微かに残っていると思っていたら、どんどん思い出してきてしまう。
旅行したこと、料理をしたこと、たわいのない会話をしたこと、散歩したこと、
教えてくれた野球のこと、同じ趣味の話、一緒にたくさん笑ったこと。
どうしてこんな結果になってしまったんだ。
私のせい?他のこと?
胸がドキドキする。息が苦しい。